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「行ってからのお楽しみだよ」
快晴くんは、そう言って笑った。
昨日、私の隣で笑ったのだ。
その快晴くんのお葬式だなんて、誰が予想できただろうか。
あとからやってきた人が、私の傘を拾って手渡してくれる。
直立不動の私に快晴くんのお母さんが気がついて、近づいてきた。
「久しぶりね、美穂ちゃん…大きくなって…すっかりお姉さんだね」
「お久しぶりです…あの、快晴くんは…」
ここじゃ寒いから、と室内に連れていってくれた。
快晴くんは、都会に引っ越す、と言っていた。
でもそれは、病気で長らく入院することを隠すための嘘だった。
治らない病気で入退院を繰り返して、中学校も高校もほとんど行っていなかった。
意識が無くなったのは、4日前のことだった。
快晴くんが私に会いに来てくれた日。
その時から、快晴くんは葬式があるんだ、と言っていた。
自分が死ぬことが分かっていたから、快晴くんは私に会いに来たんだ。
「私、4日前から、快晴くんにバレエを教えて貰ってて、それで…」
快晴くんのお母さんは、驚いた顔をしたあと、少し涙ぐんで笑った。
「快晴はね、美穂ちゃんのバレエがすごく好きだったのよ。きっと、最期に見たかったのね」
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