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僕の母は、少しずれている。
この間だって、買ってきてくれたシャツが派手すぎて着るのが恥ずかしかったから、クローゼットの奥にしまいこんでいたのに、同じシャツをもう一枚買ってきた。
「大切だから綺麗にとっておきたいのよね。そっちを鑑賞用にして、これ着ればいいわよ」と得意気に笑った日には、もう僕も笑うしかなかった。
悪い人ではないんだけど、とにかくずれている。
こっちが伝えたいことを、全くキャッチしてくれないっていうか。
だからなのか、もうずっと前に両親は離婚して、父は家を出ていってしまった。
父に愛想をつかされた母は、ひとりっ子の僕をうんと大事にしてくれて、愛情をたくさん注いでくれたんだ。
だからこそ、母の"ズレ"をつっこむ勇気がなかった。
だけどさ、ここまで天然というか、ハッキリ言ってしまうと、変人だとは思わなかったよ。
僕は真っ黒の空から、血まみれになった母を見下ろして呆然としていた。
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