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室外に足音を感知して、アタシは部屋のドアに視線をやった。この足音は。
「執事だ」
歩を進めるペース。歩幅によってそれは個人差が出る。この歩速音は執事のものだ。
しばらくして、ドアがノックされる。
「主様。お電話で御座います」
「入れ」
許可が出されて、「失礼します」と執事が入ってくる。その手には銀トレイに乗せた電話の子機(直立不動)がある。
いつも思うけど、すげーバランス感覚だよな。歩いていてそれ倒れないの、なんで?
執事は『主』の側まで寄り、電話を差し出す。『主』はそれを取り話し始めた。『主』の顔が仕事時のそれになる。電話は仕事の件のようだ。
……暇だな。
アタシは少し考えて、“犬”の拘束から逃げてみようと試みた。
“犬”の腕の中でくるりと向きを変え、一度“犬”と対面する。
「…………?」
“犬”が疑問符を浮かべている間に、その左肩からよじ登る。腕の筋力と爪を“犬”の服に引っ掛ける形で体を浮かせる。ハッとした“犬”がアタシの体を掴まえて引きずり下ろそうとする。こちらは既に片足の膝を肩に乗せていたので、ちょっとした力で抵抗すると難なく逃れた。後は“犬”の背中で前転するようにして床に着地する。
よし!
このまま逃げてやる!
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