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「ねえ見て旭!レモンスカッシュ」
「なつかしいな」
莉那と旭は地区の酒屋さんが出している飲み物の屋台に駆け寄った。
大人は本格的なカクテルが楽しめて、子供はアルコールを飲んでいる大人の気分が味わえると評判の屋台はまだ健在のようだ。
二人は昔、小学生の間で人気だったレモンスカッシュを店主から受け取った。
透明なプラスチックのコップにくし切りレモンを差し、赤いチェリーを沈めたお手製のレモンスカッシュ。
一口飲むと、莉那の脳裏に昔の記憶が鮮明に蘇った。
大人味のレモンスカッシュを飲むことは、地区の祭りでの子供達の定番だった。
「ねえ、初キスはレモンの味らしいよ。試してみる?」
笑いながら莉那が昔と同じ台詞を口にすると、旭が目を丸くした。
その顔を見ている内に、莉那は気持ちが昂るのを感じた。
「小学校のころ、これを飲みながら決まってそう言って、わたし、ウブな旭をからかってたよね」
「そうだな」
「本当にしてもよかったんだよ」
そう呟いた莉那を、旭の見開いた目が見る。
「わたしじつは、旭が好きだったの」
軽いノリのように、でも本心で莉那は言った。
冗談で返してくれたらいいと思っていたけれど、旭は俯いて、暗い顔で呟いた。
「早く言ってくれたらよかったのに。オレも、オマエが―…」
その先の言葉は続かなかった。
そのまま旭は黙り込み、莉那もまた何も言えなかった。
莉那は透明なカップを傾け、レモンスカッシュを一口飲む。
甘くて酸っぱく、そして苦い味が喉にいつまでも残っていた。
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