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「テスト勉強、ちゃんとしたの?赤点とっても知らないよ」
「進級さえできりゃいいんだよ、赤点でも再テストでがんばるって」
へらりとお気楽に笑う旭に半ば呆れつつ、昔から変わらない大らかで前向きな性格を好ましいと莉那は思う。テスト前になると多くの学生はカリカリして勉強一色に染まる。ほんのちょっとの息抜きさえも許されないような気がしてしまうのだ。
テスト当日に至っては、通学中や僅かな休み時間さえ、少しでも知識を詰め込もうと単語帳を睨み、友達との会話でさえ億劫に感じているような殺気だった子もいる。
神経質になる子の気持ちがよくわかるし、勉強しなくてもいいとか、テストの点が悪くてもいいなどという気はない。だけど、本当は旭みたいにどっしりと構えていたい。
「それに、進級できるようにリナが勉強教えてくれるから大丈夫だって」
歯を見せて笑う旭の笑顔は真夏の太陽みたいだ。昔からちっとも変わらない。
年を重ねるとみんな少しずついろんなところが濁っていくのに、旭だけはずっと透明なままだ。
旭と喋っていると自分まで綺麗になっていく気がする。莉那は自然と顔を綻ばせた。
「しょうがないなー、旭は。いいよ、わたしが勉強教えてあげる」
「おう、頼んだぜ」
旭と笑い合いながら並んで通学路を歩く。肩が触れそうな距離なのはいつものことで、莉那は少しも気にならなかった。これが二人にとって普通なのだ。
けれど、周りから見るとどうやら距離感がおかしいらしい。
「ひゅーひゅー、お二人さん。いつもラブラブだね」
「よっ、おしどり夫婦!」
旭と仲がいい男子数人が口笛を吹き、囃し立てながら、二人の横を通り過ぎる。
「オマエらなー、うらやましいからってやっかむなよ」
笑ってそう返す旭に、莉那は時が流れたことを感じる。
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