檸檬の雫

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防波堤の向こうでさざめく真っ青な海、鼻腔をくすぐる磯の香。 賑やかな砂浜に莉那は目を細めた。 積極的に海に行きたいと思っていたわけじゃないけど、海は好きだ。 おもいきり楽しむぞと、莉那は大きく伸びをする。 水着に着替えて裸足で砂浜を歩く。指の隙間からサラサラした砂が零れた。ちょっと熱いけれど、素足で地面を踏みしめるのは心地がいい。 「ねえ旭、どう?アタシの水着。なかなか決まってるでしょ」 いつもより色っぽい表情を浮かべて菜々美が髪を掻き上げる。グラビアめいたポーズに、その辺にいた男性陣が感嘆を漏らすのが聞こえた。 「おー、その水着、にあってんな」 小学校の頃は女子の服装を褒めるところなんて想像もできなかった旭が、なんの照れもなく菜々美の大人っぽい黒ビキニを褒める。 旭と菜々美、ラブラブなんだな。そう思った途端、胸が僅かに痛んだ。 旭に彼女がいることを知った今でも、彼への思いを引き摺っている自分がいやで、莉那は殊更はしゃいだ笑みを浮かべた。 「菜々美すっごくステキ、よく似合ってる。セクシーすぎてクラクラしちゃう」 「莉那ったら、褒めすぎよ。莉那もその水着、超カワイイ」 「ほんと、かわいいなリナ」 思いがけず旭に褒められて、莉那ははにかんだ。 「ありがと、旭。お世辞でも嬉しい」 「いや、お世辞なんかじゃねぇって」 笑いあう莉那と旭を、菜々美がじっと見ていた。 視線に気付いた莉那は、自分を映す褐色の瞳の温度の低さにぎくりとする。 しかし、旭は視線に気付かずに、笑顔で話し続けていた。どうしたものかと悩んでいると、怜司がフォローしてくれた。 「カノジョの前で他の女を褒めんなよ、旭。無神経だぜ」 「そうだよぉ、莉那と旭っていいカンジだから、アタシ本気で嫉妬しちゃう」 「おー、ワリィワリィ」 怜司のつっこみのおかげで凍えかけていた空気が朗らかになって、莉那はほっとした。 せっかくのレジャーが気不味い雰囲気にならずにすんだ。
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