0人が本棚に入れています
本棚に追加
ずいぶん力技なやりかたで、美由たちはその場をあとにした。
残されたのは、ファノンと、あたしと、ヴィミニー。
(ヴィミは既に失格が確定している。)
試験の残り時間はあと二十分だ。
ファノンが戸惑いながらもロを開いた。
「アタシ、里沙の気持ち受け取った。これで願いかなえれる」
一歩前へ進み出て、空中に魔法陣を描いて呪文を唱える。
「エルリタ、アルニタ、メルデローツ。メイ!」
光の束が去った四人~三体と一人~を追って走っていった。
四人で末永く幸せに暮らせますように、か。
「まんまだね」
ヴィミに言われて、
「黙れ失格者」
あらためてあたしを振り返る。
「ファリハはどうすんの?」
あたしは……
「ちょっと思うとこあって……このまま学園戻る」
「えーっ!?」
「ファリハ失格になっちゃうよ!?」
それでもあたしが飛びたつと、二人はあたしを追ってきた。
二十三時間五十分十七秒。
ことしの魔法試験が終った。
あたしはうかり、ファノンは落ちた。
ファノンはうかれた筈だった。
あの一点を見失わなければ。
「どういうことよ!」
「あの三人、人間じゃなかったんだよ? 設問は何?」
「二十四時間以内に……」
「人間を一人幸せに……あ!」
さすがファノンはすぐわかったらしい。
「そこかぁ……」
「どこ」
「そんなだからヴィミは落ちンだよ」
「それをゆうなあっ!」
二人のドタバタを横に見ながら、あたしはメレディーツのことばを思い出していた。
よく事態を見極めましたね。
そう、人間ではないとはいえ、杖もちゃんとささりましたし日常行動は完全に人間でした。
人間と判断してもよかったのです。
でもあなたは、そこに人間と異なる何かを見つけました。
杖がグロウロイドにささった人のなかで、合格したのはあなただけでした。
広い視野こそ魔法使いの基本です。
精進なさい。
合格者を示す漆黒の大マントが風に翻える。
ヴィミニーの魔法が失格後もそのままなら、ファノンのも効いてるはずだ。
美由。
立木。
桜井。
どこでかはわからないけれど、きっと三人は、少なくとも立木は幸せになれる。
願わくは、三人とも…
秋色の風の中で、あたしは少しだけほほえんだ。
風にはかすかに冬の匂いがした。
ほんのかすかに。
完
最初のコメントを投稿しよう!