128人が本棚に入れています
本棚に追加
/286ページ
その昔、リアリティーを追求した3D映画を見た後に、実際に草木が揺れるのを見て、現実に現実味がありすぎるように感じたことがある。
それこそ、普段は当たり前すぎて見落としてしまう現実味を、実感した瞬間だった。
そしてこの空間では、そのときに近い強い現実味を感じられた。
つまり、この空間は実在するもので、自分の体も現実のそれなのだろう。
俺はそう考えた。
次に、ここに至るまでの経緯を思い返してみる。
「あれ、あの後どうしたんだっけ・・・・・?」
思わず声に出てしまった。
それほどに、自分でも驚きだった。
覚えていないのである。
それも何一つ思い出せないのだ。とはいっても、自分の名前や職業まで思い出せなくなっているわけではない。
思い出せないのは、あの夜から先の出来事だった。
次の日に初出勤を控え、いつもより少し早く布団に入り、いつものように恥ずかしい妄想に勤しんでいたあの夜から先の出来事。
それがまったく思い出せないのだ。
あの後、次の日は目が覚めたのか、覚めなかったのか。
職場には無事たどり着いたのかどうか。
そもそも、自分は生きたままここにたどり着いたのか、死んでここに送られたのか。
さまざまな可能性が脳裏を過ぎったが、どれもピンとこない。
最初のコメントを投稿しよう!