僕は落ちこぼれ

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──ある日、僕は出会った。 誰よりも弱く、誰よりも強いその人に。 「少年。君は何を得たいと思う?」 『最強』と名高い彼は、今しがた仕留めたばかりの悪党の群れを眼下、マッサージよろしく釘バッドで己の肩を叩きながらそんなことを問うてきた。 突然の質問に、ボロボロの僕は「ひえっ!?」なんて情けない声を発してしまう。 「俺は優しい『ヒーロー』だ。だからお前が欲しいもの、望むものを与えられる」 「い、いきなりそんなこと言われても……」 ていうか『ヒーロー』ってなんだ。 呆けていれば、バーチャルよろしく消えた悪党に背を向け、自称『ヒーロー』は僕を一瞥。 にやりと、楽しげな笑みを浮かべた。 どこか裏のありそうなその笑みに、自然と頬が引きつってしまったのは許してもらいたい。 「お前、強くなりたくねーか?」 一人、顔には出さないものの、内心素晴らしくテンパっている僕に、彼は言った。 若干空気を読んでいないような台詞ではあるものの、その言葉には妙な力を感じてしまう。 「そりゃあ、なれるなら、なりたいですけど……」 弱々しく一言。 『ヒーロー』は「だよなあ!」と、仲の良い友人のように僕の肩へと腕を回した。 馴れ馴れしく組まれたそれに、逃げ出したい衝動に駆られるのは僕がコミュ障だから、なのだろうか……。 「『最強』にしてやろうか? お前のこと!」 どこか元気よく、ハツラツに。 彼は白い歯をこれでもかと見せつけて、輝かしい笑顔を浮かべた。 見る人を皆、幸せにしてくれるような笑顔には、もはや脱帽である。 僕もこんな風に笑えたなら、なんて考えながら、彼の申し出に否定を表す。 「結構です。僕、別に『最強』になんてなりたくないですし……」 程よく生きればそれでいい。 告げる僕に、『ヒーロー』は無言に。 しかし、すぐに笑みを戻すと、「そーかそーか!」と僕の肩を強く叩いた。 「お前は強いな!」 励ましているのかどうなのか……。 そんなことはない、と返そうと『ヒーロー』を振り返る。 が、なぜかそこには誰もおらず、あるのは無の空気だけ。 先の悪党よろしく消え失せた彼の存在に、僕は暫く、首をかしげて佇むことしかできなかった。
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