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勇者は魔王を倒すために存在する。
それ以上でも、それ以下でもない。
ゆえにそれ以外には何も無い、ただそれだけの存在。
勇者、それはまるで道具のようだ。
魔王は哀れみの表情を浮かべた。
「勇者よ、貴様はそれで満足か?
勇者として生まれ、勇者として生き、
そして勇者として死んでいく
それがお前の望みだと?」
それは魔王のセリフとは思えないものだった。
しかし魔王は、問わずにはいられなかった。
数多くの人間を見てきた魔王だったが、今目の前にいる人間は、そのどれとも違っていた。
「貴様に、そんな事を言われる筋合はない!
貴様に何がわかる!?
魔王の貴様に・・・一体、何が・・・・・・」
勇者の目は、涙で滲んでいた。
勇者が涙を見せたのは、これが初めてのことだった。
その相手が魔王というのは、少しばかり残酷だ。
「ここに来て、ようやく人間らしさを出したな、娘――――」
「だまれ!
一生の不覚だ・・・勇者が魔王の前で涙するなど」
「安心しろ、貴様はもう勇者ではない
我を討ち、その聖剣を手放した時点で、
一人の人間に戻ったのだ」
そして彼もまた、もう魔王ではない。
聖剣に貫かれたとき、その役目は終わった。
「違う、わたしは勇者だ!
たとえ死んでも、その事実だけは変わらない!
でなければ、私が生きた意味がなくなってしまう・・・」
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