何倍も、何十倍も。

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 ネクタイを首元までしっかりと上げ、鞄を渡した。ありがとう、と垂れ目を細めた光揮に軽いキスをする。それに応えるように、光揮は力強く、ぎゅっと抱き締めてくれた。 「いってらっしゃい、帰ってくるの待ってるね」  寂しい気持ちを押し殺して、いつもと同じ笑顔を見せる。それでもうっすらと表情に出ていたのか、もう一度力強く抱き締めてくれた。  お互い名残惜しそうに手を離す。腕時計を見た光揮は静かに玄関のドアを開けた。手を振ると、手を振り返してくれた。ドアが音を立てて閉まる。  出張から帰ってくるまでの1週間、しっかりと家事をこなさなければ。帰ってきた光揮をがっかりさせない為にも。 「よーし、やるぞ!」  やらなければいけないことは沢山ある。それらを全て丁寧に片付けていこうと気合を入れた。光揮が帰ってきたらきっと、たくさん褒めてくれる筈だと。
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