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―そう、思っていた。
1週間と言われた出張は、何の連絡も無しに延びていた。2週間経っても帰ってこない。初めての出張で大変なのかもしれないと考えて、増大した寂しい気持ちを胸の奥にしまいこむ。
仕事から帰ってくるのを待つのが、こんなに寂しかったなんて。せめて声だけでも聴きたいよ、光揮。
その瞬間、家の電話が鳴る。もしかして光揮かな。ここ最近で一番高揚する精神。急いで受話器を取った。電話越しに聞こえてきたのは大好きな光揮の声……なんかじゃ、なくて。
「細谷光揮さんのお宅ですか? 私、桜川大企業の中村と申しますけど、光揮さんはいらっしゃいますか?」
光揮の声とは対照的な、キビキビとした冷たい声。光揮が働いている会社の人だった。でも出張行っていることくらい、会社の人だったら分かる筈。どうして電話をしてきたのか。
「光揮は2週間前に出張に行きましたが……」
素で驚いた様子の中村さん。詳しく話を聞いてみると、光揮は2週間前から無断欠勤をしているって。つまり、出張だって出掛けて行ったあの日から。上司に再度聞いてみるとのことで電話は終わった。
光揮は私に、嘘を吐いたのだろうか。出張に行くと言って、何処か知らない場所で暮らしているのだろうか。そう考えると、一気に不安になってしまった。
光揮の携帯に電話をかける。案の定、電話は繋がらなくて。どうしようもないから、信じて待つことしかできなかった。
そしてある日の夕方、家の電話が再び鳴り響いた。
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