何倍も、何十倍も。

『まず最初に、ごめんなさい。出張というのは嘘です。待たせてしまってるよね。だから早めに、美春がこの手紙を見つけてくれてるといいな。俺は、自殺を決めました。理由は美春には全然関係なくて(でも家族だから関係はあるよね。ごめんね)、仕事に耐えられなくなっただけです。たったそれだけ、なんて美春は思うかな。でもさ俺、上司からのプレッシャーに耐えられないんだ。少しのミスも許されない大企業だから毎日怖くて、頭が痛くて、吐き気がして、頑張って隠していたけど俺、フラフラになりながら会社に行ってました。気付かなかったって美春は自分のこと責めそうだけど、それだけはやめてね。俺は美春と居た時間、心の底から幸せだったんだよ』

『だから、本当に、本当にありがとう。こんな弱い俺と結婚したこと、後悔させちゃったかな。たったひとつでも、幸せな思い出が美春に作れていたら嬉しいです。どうか新しい人と、新しい結婚生活を始めてください。俺が美春を幸せにできなかった分、たくさん幸せにしてもらってください。不甲斐ない俺でごめんね。他人に頼るような俺で、本当にごめん。幸せになってください。さようなら』