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フワフワとした浮遊感に包まれながら、俺はボンヤリした思考で今の状況を考えていた。結果答えを得る事は出来ず、心地よい感覚に身を委ねる。そんな俺の頭に、親父が死んだ日の記憶がゆっくりと、しかし鮮明に浮き上がってきた。
「ソルト、夕飯の時に大事な話がある」
親父から突然そう言われたのは、俺が能力を引き継いだ日の午後だった。2人でいつものように丸太を運び終え、休憩に麦茶を飲んでいた時、親父は覚悟を決めたように話しかけてきた。思春期真っ只中の俺は、親父と仕事は共にするもののあまり話すような関係ではない。だから、親父がわざわざ俺の目をしっかりと見て、〝大事な話がある〟と言ったという事は、それ相応の話があるのだろうと分かった。俺も親父の目を見て答えたが、真後ろに重なった夕陽の逆光に阻まれ、親父の表情を伺う事はできなかった。不思議な緊張と不安が重圧となって体を覆うのを感じる。
「わかった。じゃあ買い出し行ってくるは」
そんな空気に耐えられなくなった俺は、まだ残っている休憩時間も無視して立ち上がる。親父から目を逸らし、振り向く事もなくそれだけ言って逃げるように走った。
「いや、今日は飯あるぞ?」
後ろから親父が何を言っているのか聞こえていたが、今更振り向くとか恥ずかし過ぎて出来なかった。これが最後の会話になるなどと想像出来るはずもなく、俺はその時の感情に任せて禁呪の森を後にする。夕焼けに照らされた二つの影がどれだけ伸びようとも、今後交差する事は絶対にない。
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