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第1話 樹木屋
「いつもありがとなおっさん」
切り終わった丸太を荷台へと積み終え、俺は大事なお得意様に声をかける。
「それはこっちのセリフだ。お前の親父さんがいなかったら、今頃俺に職はなかったかもしれなかったんだからな」
親父、か…
その言葉を聞くとどうしても思い出すことがある。つい3ヶ月前の事件だ。胸の奥をチクリと刺す痛みが顔に出ないように、俺は少しだけ顔をうつむかせて無理やりに笑顔を作る。お客さんに対して嫌な顔を見せるなど、営業をする身としては絶対にやってはいけないのだ。
「まだ引きずってんのか?お前さんのせいじゃねぇんだから、そう気に病むこともないだろうに」
おっさんは小さい子供を安心させるように、優しく声をかけてくれる。俺は昔からこの人の声に弱いのだ。小さい頃は良く親父と喧嘩して、泣いてはおっさんに慰めてもらったりしていた。あの頃を思い出し、俺は自然と笑みをこぼす。それでも、心の底で渦巻く深い悲しみは、俺の笑みを中和して溶かしていく。
「わかってるんだ。それでも…あのとき俺があの場にさえいれば……」
つい感情が高ぶり、無意識に拳を固く握り締めてしまう。あくまでも表情は変えず、体には力が入る。はたから見るその光景は非常に不可解な格好だろう。
「いたっ…」
自分の拳を見ると、固く握りすぎたのか軍手に血が滲んでいた。丸太を運んでいたことで土と汗の匂いが染み込み汚れた軍手。白い生地の部分に、ジワリと赤い染みが広がっていく。
「あ…ああぁ……うわあああぁっ!」
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