プロローグ

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『冬が少しずつ迫る十月末ですが、昨日のA市茶玲町(されいちょう)は例年十月では過去最高の気温を記録しています。』 「……こいつ毎年最高気温更新してんな」 父水上涼介(みずかみりょうすけ)と二人暮らしの大学1回生水上圭(みずかみけい)は、率直な感想を述べて焼きジャケをつついた。朝はご機嫌斜めな彼は、つい悪態をつく。 花粉や最高気温、インフルエンザの様な現代日本の風物詩は、毎年何かしらを更新するものである。未だ木枯らし一つ吹かないこの町は、ダウンが必要とはされていなかったし、アイスキャンデーがスーパーでまだ売られているくらいには暑かった。最近は耳にしなくなった温暖化現象も、まだ手を緩めてはいないようである。 I県A市。 面積7.53平方キロ、人口約132,315人の小さな市。茶玲町はそこに属している。名物はフライまんじゅう。ビルが殆どないこの町は隣町と違って視界が開け、見晴らしが良い。気候も冬には積雪こそするが、夏には30度前後の気温で、比較的住みやすいA市内でも特に居住に適した町である。
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