神様が拾うもの

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神様が拾うもの

 二十二時十五分。  私は苛々する気持ちを少しでも落ち着けようと、ココアを入れてソファに腰かけていた。  ココアを一口口に含むと、甘さが口一杯に広がる。それは少しも気持ちを落ち着けてはくれなくて、私は乱暴にマグカップをテーブルに置いた。  中身が大きく揺れ、少しだけ零れた。私はそれにも苛ついて、小さく舌打ちをしてティッシュでそれをふき取る。  ソファの脇にある小さなゴミ箱にそれを捨てようとして、私は部屋の隅に神様が立っているのに気が付いた。  神様というのは私が勝手につけた呼び名で、実際のところ彼が何者なのか、私は知らなかった。  二十代くらいの見た目で、黒ずくめの格好をした神様は、昔から時折私の前に姿を現す。不思議なことに、私は神様のことを恐ろしいと思ったことは一度もなかった。だからこそ、私は彼が神様のような存在なのではないかと思っているけれど、実際に聞いたことはないから、それは私の予想でしかない。  神様は、私の機嫌が悪い時に限って現れる。ふと気が付くと、部屋の隅に立っていたり、椅子に座っていたり、私の近くに来ているのだけど、今までに話をしたことは一度もない。来るときも、居なくなる時も無言だ。  神様は現れると、ただ黙って私を見ている。するとやがて、私の周りからは黒い靄のようなものが出てきて、それはしばらくすると、球状の小さな黒い塊になる。神様は、どうやらそれを回収しに来ているらしかった。  周りの靄が固まって黒い塊になると、神様は無言でそれを拾い上げて、肩にかけたカバンにしまって消える。ただそれだけだった。  最近は、頻繁に神様が現れる。それは、私の機嫌があまり良くないということだ。  最近、何もかもうまくいかない。  仕事では小さなミスを繰り返すし、前から約束していた友達との予定はドタキャンされたし、恋人には少し距離を置きたいと言われてしまった。  悪いことは重なるとは言うけれど、そこからの抜け出し方が分からなくなってしまった私は、ずっとストレスを抱えるようになっていた。  すると、神様は毎日のように現れるようになった。  神様は、ただ靄が塊になるのを待ち、それを拾って帰っていく。
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