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「小さな心のままでは、元の大きさの心なら感じることができた全てのことが、感じられなくなってしまう。悲しいことや怒れることのような辛いことだけではなくて、嬉しいことや楽しいことのような、幸せにまで気付けなくなってしまう。そんなのって、すごく寂しいことだと思わないかい?」
神様は、私にそう問いかけた。
そういえば、最近辛いことばかりで良いことなんて一つもなかった。それはもしかして、神様が言うように、私の心が小さくなった分、幸せを感じにくくなっているからなのだろうか。
私が迷っているのを見て、ずっと無表情だった神様は、ふと微笑んだ。
「僕らは、それを寂しいと思う。だから、零れた心を拾い集めて休ませて、また人に返していく。それが、人の生を眺める僕らの仕事だ」
神様はそう言うと、真っ黒な私の心の一部をカバンにしまった。
「君の心は預かっていくよ。十分に休めたら、また君に返すから。それからこれは、君に返そう」
そして、そのままカバンの中から何かを取り出して私に放った。
その何かは私の目には映らなかったが、きっと休ませてもらった心の一部なのだろう。心というのは本当は、無色透明なものなのかもしれない。
そのまま私に背を向けた神様に向かって、私はもう一度声をかけた。
「待って。あなたは神様なの?」
初めて直接聞いたその言葉に、神様は肩越しに振り返って答えてくれた。
「人の子には、そう呼ばれることもあるよ」
神様はそれだけ言うと、瞬き一つの間に消えてしまった。
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