鈴虫の、羽の音色。

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鈴虫の、羽の音色。

硝子の欠片に。 音色の虫ひとつ。 はへんは無数に広がる。鋭く鈍くひかり 崩れては、破片を、生み出す。 いろは。虹色。ひかりで。色をつける。 なまみの音色の虫ひとつ。 その上、いたく、好きじゃない。 キレイだから、止まっている。 居場所は、ここではない。わかってる。 欠片は、ひかる。魅了する。 虹色見せて。誘う。いたいガラスの群れ。 羽をこすり。音色を出す。虫。 かわいそう。 いる場所は、ここじゃ、ない。 ガラスのはへんは、 羽をこすりあわせた 音色をもかき消す。 音色をうばう。 キーンと不協和音をひびかせて。 ここで、鳴くのを、いましめる。 羽の音色。かき消される。 誰も。何も。と、言う。 だけど。それは、少しのいましめ。 昇る月は、見守る。 大きな、月夜で、いだきただよう。 羽の音色。は、薄く、月夜にただよう。 いたいたしい。からだで。 羽をこすりあわせた。音色。不協和音の その中にも。ただよう。 わからなくても。届かなくても。 羽の音色。は、こすりあわせて。なく。 見てる月を、阻むガラスの破片を、 鈴虫は、知っている。 自分で。選んだから。そこにいる。 いつか、こすり合わせてる。羽に 力尽きるまで。 短いかもしれない。そこに。いた それだけを、残せたら。 鈴虫は、幸せ。 虹色のガラスの上で、 羽を動かす。 月夜の明かりを 見上げて。
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