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「おはよう、ギン。御入り。」
『はい』
『ふすー…』
正座のまま、静かに障子を開けた。
朝日が部屋に溢れる。
『今朝は四半刻程、長う御座いましたね。夢視で依頼でも御座いましたか?』
「依頼は無いけど、色んなのから呼ばれた。」
ギンはこの屋敷に憑いていた銀狐だ。
見た目は平安時代の衣装を着た、銀髪のおかっぱの少年。
クロは、ぼさぼさの黒髪に、痩せている大きな躰。
2人とも、所謂、狐は狡賢いと言う所は特に無い。
一般に善狐は、主人と決めた相手には、忠実で情深く、律儀で、親切で、礼儀正しい。
但し、クロはそんなに、礼儀正しくない。
個体差は在る。
『取り敢えず、夜具から出てくださいまし。畳みます』
ギンはクロには眼もくれず、静かに言った。
「クロ、退いて?」
『嫌だと言ったら?』
『退け、馬鹿狐。主人から離れろ』
ずっと謎なのだが、クロとギンは仲が悪い。
「ギン、言い過ぎだよ。」
『そうだぜ、先輩』
『私よりも図体デカい童が!』
このやり取りも毎日。
ずっと変わらない、変わって欲しくない、僕の日常。
「ほら、クロ、退いて。」
渋るクロを退かして、ゆっくりと起き上がった。
「兄様は?」
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