よちよち歩きの子供のお話

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 国道一号線から少し離れた小高い丘に建つマンションに住んでいる。マンションの規模は300戸余り、7棟ある建物がサークル型に配置され、十分すぎる敷地が用意されている。敷地には立体駐車場が用意されており、戸建ての利便性はないが不便は感じない。  週末の午後、出かける私用があり車に乗り込む。駐車場の屋上から複数回周回して出口に向かう。出口の暗がりから正面の明るさに目をちらつかせて一旦停止する。  左右を確認しようとした時、右手からよちよち歩きの子供が車の前を通り過ぎる。男の子。腕をくの字に曲げて元気良く通り過ぎる。大人がいない。明らかに子供一人である。  男の子が通り過ぎるのを確認して出口を注意深く出るのだが気になって仕方がない。惻隠の情。何かおかしいという思いが車を脇に止めさせる。  車を降りて男の子の後を追うと広場でたたずんでいる。後ろから、お母さんは?そう声をかけた。彼は一瞬私を見つめ、「神様」と言う。お母さんは?もう一度尋ねると「神様」と答える。  幼い子供が神様と話ができることがあるという事実は後になって知ったことであるが、今はそれどころではない。お母さんのところに帰ろう、そう促してみる。抱きかかえることも考えたが、私自身が不審者に思われることを恐れそれができない。  彼は今来た道をよちよち歩きで帰ることになる。マンションに隣接する複数の戸建ての家の何れかから抜け出してきたのだろう、察しはつく。  お母さん、お母さん、彼の後ろから私は声を出してついて行く。一軒の家から明らかに慌てた様子で女性が出てきた。子供を家の中で探していたのであろう、顔が青ざめている。  お母さんですか?お子さん一人でいたので気になって様子を見ていました。そう言うと、お母さんは子供を抱きかかえ安心してため息を漏らしている。  子供が神様の話をしていたことをお母さんに告げようかとも思ったのだが、私はやめにした。話がややこしくなるような気がして気が引けたのだ。  
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