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「のんびりした時間を過ごしたのって、幼稚園以来だと思うな」
「うん、君の体暖かくって、朝の太陽も暖かくって……」
ケイトの反応がそこで途切れた。
「……ケイト?」
「……ごめん。寝坊したいの」
「……いいよ……。今まで、ありがとな……」
言えた。
気持ちを込めて、涙声みたいに声が弱々しくならずに。
なでるケイトの背中が震えている。
ケイトのお腹がいつの間にか痩せていた。
「……うん。毎日、ご飯食べなね。……じゃ、あね」
最後の最後にめんどくさい遺言残しやがって……。
体が冷たくなっていくんだけど、暖かさが何となくあるような気がした。
その暖かさが逃げないように、覆いかぶさるようにしばらく、しばらく抱きしめてた。
ケイトの意識が感じられなくなって、死が訪れたことを実感した。
ペット霊園で一切を任せる。
ケイトに対しての思いは伝えた。
あとは。
……。
いつもの手順通りにカミさんを呼び出した。
「……こんなに頻繁に呼び出されたのは初めてじゃ。今度は何ぞ?!」
いつもにない凄んだ声。
「礼を、言いに」
「言われる筋合いではないと言うたはずじゃが!」
まるで俺の残りの寿命全て一気に吸い取ろうとする勢い。
「あいつの気持ちを知るなんて思いもしないことをしてもらったんだ! 礼なら言う筋合いはあるっ! ……ホントに、本当にありがとうございました」
「で、今日の用件は何ぞ?」
「礼を言いに来ただけで……」
「……ワシは願い事をする者から寿命を吸い取っておる。それが出来るのはお前一人。人数を増やすようにしておく。お前は普段通り毎日を過ごすだけでよい」
そう言って土蔵の中に消えていった。封筒はその場に残したまま。
カミさんは俺に何をしたのかは分かんないけど、寿命の吸い取りは見送りってことかな。
でも今は、仕事をしながらケイトの冥福を祈る毎日を過ごすだけで充分幸せのような気がするんだ。
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