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妻は嘆息したが、それほど深刻な気分にはなっていなかった。繭にくるまって活動を一切停止している間、食費はかからないし、手間もかからない。
しかし、活動が止まってしまっていては、いつまで会社に在籍していられるのかわからないし、Zの分の収入がストップしてしまってはやはり困る。
妻は繭に寄りかかって脚を伸ばしてみた。繭の感触は温かみがあって柔らかく適度に弾力があり、気持ちよかった。直接肌を合わせた時とはまた別の気持ちのよさだった。
背中の方からごそっという振動が伝わってきた。
妻は反射的に身体を離し、繭に向って身構えた。
糸の壁の一部が溶けてきている。妻が注視している中、次第に穴が大きくなる。
中から手だけが出てくる。妻は自然にその手をとった。Zがどんな姿になったのか外からは見えない。
Zに引き込まれたのか、自分で入ったのかよくわからないまま、妻の周囲は繭の白い壁に囲まれていた。
壁越しの薄明かりだけではZがどんな姿をしているのかはわからない。自然に妻はZと―あるいは前はZだった相手と―抱き合っていた。感触も以前と変わらず、しっとりと少し湿り気を帯びて温かみを帯びている。
そのまま妻も繭の中でまどろんでいた。いつのまにか糸の壁もふさがっていた。
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