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 夫が変身したのは毒虫ではなさそうだ。いつもおとなしく声も小さく物静かな夫が繭にくるまってまどろんでいる姿は、変身したには違いないが、それほど変わっていない気もして、妻はまた自分があまり驚いていないことにちょっと驚いた。  もう少し驚いていてもおかしくないような話だと頭では思っていたが、感情として湧き出してくることはない。感情そのものが枯れてきているのか、夫に対する感情が薄れているのかはわからない  繭の糸が乾いて不透明になって中のZの顔は見えなくなっていた。 (この繭の糸をほぐしたら絹糸として売れるだろうか) 妻はぼんやりと頭の隅で考えるでもなく考え、なんてつまらないことを考えているのだろうと思い直した。  妻は繭を揺さぶってみた。  大きな起き上がりこぼしのような感じでちょっと傾いても中にある重しに従って元の位置に戻ってしまうようだ。  どうすると妻は改めて考えた。あまり危険性はなさそうだ。これは病気とはまた別の現象のようだし、Z当人に危害が加えられることもないだろう。  何より、身体に染みついているいつもの習慣が何より強く妻を動かした。  もし繭の中からZが出てきても困らないよう冷蔵庫の中に食べ物があるのを確認した上で、妻はZの会社にZの体調が良くないから休みますという連絡を入れた。  当然だが会社側の人間は特に怪しむでもなく怒るでもなく連絡を受けつけ、そのまま妻は火元を確認し鍵をかけて出勤した。     
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