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妻が仕事を終えて帰ってきても、Zの繭には特に変化はなかった。
「ただいま」
それでも妻は一応挨拶したが、もちろん反応はない。
妻はまた繭に手をかけて揺さぶってみた。
朝とは手ごたえが違ってきている。中に入っている重いものがもっと小さく硬くなっているようだ。
(中でサナギの体裁を整えているのだろうか)
妻はたまに低木などに見かける蝶のサナギの硬く茶色に染まった姿を思い出した。
見慣れたつもりでいた夫が巨大なサナギになって繭にくるまれてまどろんでいるとなると、ちょっと妻は腹立たしい気分になった。
(何よ、一人だけ楽して)
自分もこんな風に一人誰に気兼ねするでもなく思い切り一人だけの空間にこもって他との交わりを絶って過ごせたらいいだろう、と思った。
「ちょっと」
妻は繭に改めて手をかけ、今度はやや乱暴に揺さぶった。
「いいかげん起きなさい」
何の反応もない。うんともすんとも言わない。
「しょうがないな」
妻は一人分だけ買ってきた弁当で食事を済ませた。
おそらく大きな進展はないだろうと予測してのことだったが、その通りになった。
(あとどの位この状態が続くのだろう)
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