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男性用スーツの為に生地を裁断しておりますと、ドアについたベルが鳴って来客を知らせました。
「いらっしゃいませ」
見ると、車椅子に乗った老女と、それを押す若い男性、そしてドアの押し開ける若い女性がおられました。
「ああ、大丈夫ですか?」
古い建物です、敷居があるので少し車椅子には不便です。
男性と私で車椅子を店内に入れました。
車椅子に乗った老女は、目をキラキラさせて店内を見回しています。
「ありがとうございます」
女性が礼を言ってくれました。
「いいえ。ようこそおいでくださいました。今日はどうなさいますか?」
言うと、女性は紙袋から、生成り色のドレスをお出しになりました。
それは随分古い型のウェディングドレスでした。色も、実は生成りなのではなく、皮脂や埃で変色してしまったのだと判ります。
「これを、祖母が着られるように直してもらいたいんです」
「──おばあさまに……」
私は車椅子の老女を見ました。
どこか体が悪いのでしょう、指が随分と骨ばって見えました。そして童女のように微笑むお顔……恐らく、この方は──。
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