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「アルツハイマーと肺がんで、もう立つこともできません。その祖母が車椅子のまま結婚式に参列できるよう、このドレスを直してください」
私は女性の顔を見つめました。
お名前は、柏木様とおっしゃいました。
「あの……失礼ですが……これは、ウェディングドレスですが……」
車椅子の妙齢の女性が結婚式を挙げるのでしょうか、いえ、勿論それはなんの問題もないのですが。
柏木様は首を左右に振ります。
「式を挙げるのは私です。その私の隣に、祖母に居てもらいたいんです」
それは、とても良いお話ですが……。
「あの、参列者が白のドレスを着るのは、禁忌ではなかったかと……」
失礼を承知で聞きました、柏木様は微笑みます。
「少し、お喋りに付き合ってもらえますか?」
そう言って、少し涙ぐみながらお話くださいました。
***
私はおばあちゃん子なんです。
私が生まれた頃、両親は仕事が忙しくなって海外に行くことも多くなって、私は祖母に育てられました。
子供の頃は嫌だった。
授業参観に来るのも祖母で。
クラスの意地の悪い男の子達のからかいの的でした。
それでも祖母はいつも私に優しかった。からかわれるから来ないでって言うと、寂しそうに「行きたいのにー」なんて言って。私はいつも負けてました。
そんな祖母の物忘れがひどくなったのは、10年も前からです。
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