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それを着たおばあさまを見て、柏木様ご夫妻は嬉しそうに微笑みました。
「おばあちゃん、よく似合ってるわ」
「本当かい」
おばあさまは頬を染めて微笑みます、本当に20歳ほど若く見えるのではないでしょうか。
「ねえ、鏡で見たいわ。姿見はないの?」
「失礼を致しました」
私はキャスター付きの姿見を運んで、おばあさまの前に立たせました。
それを見たおばあさまは、不思議そうな顔をされました。
「まあ……これは誰?」
はて? 誰の事でしょう。鏡にはおばあさましか映っていません。
おばあさまには、別の何かが映って見えるのでしょうか?
「──ああ、多喜子さん」
公輔様がお声を掛けました。
「この鏡はね、未来を映すんです。60年後の多喜子さんは、こんな綺麗に歳をとって。とても美人さんだね」
そんな嘘を嘘とは思わず、鏡の中の老女はそれはそれは嬉しそうに微笑みます。
「もう、栄吉さんったら」
それはおばあさまの亡くなった旦那様だそうです。
「ドレス、似合ってるよ、多喜子さん」
「ありがとう、式が楽しみだねえ」
式は一カ月後です。
***
それから数カ月後。
柏木様がご来店くださいました。
「ごめんなさい。もっと早く来たかったんですけど、祖母の容体が急変して……先日、四十九日の法要を終えました」
「そうでしたか……」
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