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仕立屋の事を気にかけて下さっただけでも嬉しいです。
「祖母が幸せそうにしていたのが嬉しくて、どうしても報告したかったんです」
そう言って、鞄から何枚かの写真を出して見せてくださいました。
赤い絨毯の上で、車椅子に乗った多喜子様と手を繋ぐ公輔様、その車椅子を押しているのは柏木様です。
祭壇の前では車椅子を挟んで三人で並んでいらっしゃいます。
さすがに誓いのキスはしなかったそうですが、指輪の交換までなさったとか。
どの写真も、多喜子様は皴々のお年寄りには見えない程、生気に溢れた若々しい表情で笑っておられます。
「藤宮さんのお蔭で、とても素敵な結婚式になりました。初めは馬鹿にしていた両親も喜んでくれて、参列者のみなさんも驚かれたようですが、とても思い出深いと褒めてくれました」
いいえ、私などが仕立てなくても、十分素敵な結婚式にはなったでしょう。
それでもこうしてお礼に来てくださるなど、本当に嬉しいです。
「実は少しだけアルツハイマーの症状がよくなっていたんです。私だと判ってくれて、公輔さんも私の夫だと判ってくれて……お医者様いわく、結婚式に出たのがよかったのかもと」
柏木様が目頭の涙を拭います。
「でもガンには勝てなくて……祖母は幸せに旅立ったと思います。最期は本当に眠る様な穏やかな寝顔で──藤宮さんのお蔭です、本当にありがとうございました」
「とんでもない、私もいいお仕事をさせていただきました」
仕立屋には、もったいないお話です。
私はただ、服を作ったり直したりしているだけですから。
終
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