プロローグ

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 ──少女がサイラスに拾われた直後のことだ。  長年に渡って続いてきた二つの国の争いは大きな爪痕を残し、互いの国境にある小さな農村のことごとくを廃墟に変えてしまっていた。  無論、村だけではない。地方それぞれの領主の城やその城下町も、残らず甚大な被害を受けていた。  先に争いを始めたカルツヴェルンは、しばし休戦とばかりに攻撃の手を緩めた。さすがに兵が足りなくなったのだ。  それはアルドレア軍も同じで、王は兵の増強を騎士たちの判断に任せ、自らは街の復興を手伝った。    §  北東の丘陵地帯を治める領主であり、小さな地方騎士団をも統率する騎士団長サイラス・ウッドエンドは、拾ってきた娘を妻のオリビアに任せて面倒を()させた。  侍女たちが自ら世話を申し出たが、敵意がないことを示すためだと説明して断り、また、少女のことはけっして外にもらさないように、と何度も念を押した。  一体、いくつの悪夢を見ただろう。名も分からない少女は、毎晩うなされながら懸命に母親を呼び、瞳を閉じたまま涙を流し続けた。     
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