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礼儀としては少々不作法ではあるが、オリビアは逆に感心した。こんな小さな子供でも、赤の他人に対して直ぐに気を許さないようしつけてあるのだと分かったからだ。恐らく、何か理由があるのだろう。素性を知られてはいけないような、特別な理由が。
「わたしのお母さんはどこ?」
少女は顔を上げ、強い眼差しで言った。
「お母さんもここにいるんでしょ?」
オリビアは少し考えた後、目を閉じ、首を横に振った。
そして、はっきりと告げた。
「とても哀しいことだけれど、あなたのお母様は天に召されたわ。夫が最期を看取ったのよ……」
あまりのショックに、少女は目眩を覚えた。
「う、うそ……! うそよ! 病気一つしなかったお母さんが死ぬはずないわ! いい加減なこと言わないで!」
一抱えもある大きな枕を投げつける。それだけで全身に鋭い痛みが走り、少女はうずくまって悲鳴を上げた。
オリビアは枕をそっとベッドに戻し、少女を支えて優しく寝かせた。
そして、呆れたふうに溜め息をつく。
「うそじゃありません。だから、今から私が言うことをよくお聞きなさい、名無しのお嬢さん。きちんと怪我を治したら、この屋敷の家族の一員として一緒に暮らすといいわ。……いえ、そうするべきよ。ただし、これからは騎士団長の娘として生きるのだから、最低限、それなりの礼節と教養だけは身につけてもらいますよ。いいですわね?」
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