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騎士は傷だらけの銀の甲冑に身を包み、頭には血で汚れた包帯が巻かれている。三十を半ばも超えた、長身の男だ。戦士としてはまだ若いが、その表情にはいくつもの戦を切り抜けたたくましさと、いくつもの生と死を見てきた、哀しみに満ちた目を持っていた。
「虚しいものだな、戦というのは」
長身の騎士は獣に話しかけるように、その立派なたてがみをそっと撫でながら言った。
「もう、誰も……いないのか……?」
彼は獣から飛び降り、まだ火が燻っている戦場を見渡した。少し前までは戦とは関係のない人たちが住んでいた村だったというのに、争いを終えた今は両軍共に撤退し、争いの傷痕だけがそこに残されていた。たった一夜にして滅んだ平和な村が、今は建物の残骸と家畜、人の死体が転がる地獄絵図と化している。
(彼らに罪はなかった。救いを求める声すらも、黙らせてしまったのだ。……我々の、この汚れた手で)
騎士は獣の手綱を引きながら、一歩ずつ罪の重さを数えるように重々しい足どりで進んでいった。
無事な家など、一つもなかった。時が経てば、この村は廃墟になり、誰の記憶からも失われてしまうだろう。人が死んでいったことさえも……。
ふいに、獣が耳を立てて鋭く吼えた。
騎士は何事か、と視線の先を見つめた。
家の跡だろう。瓦礫となった場所に、わずかだが人の気配を察した。
「誰かいるのか!?」
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