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返事はない。そのかわりに、いくつも積み重なった瓦、柱、壁の破片といった瓦礫が、なんと一瞬にして空高く吹き飛んだではないか。
一体、何が起こったのか。人の所業ではない。騎士は剣の柄を握りしめながら、注意深く瓦礫のあった場所を見つめた。
「……なっ!?」
そこにいたのは怪物などではない。細い両手を空高く突き上げて立っている幼い少女と、血を流して倒れている女性の姿。
少女は力尽きてくたりと倒れ。
間もなくして、遠く離れた場所に浮き上がった瓦礫が次々と落下した。
「これは……何ということだ……!」
不可思議な力には疑念を持ったが、まずはそれどころではない。騎士は急いで駆け寄り、二人の容体を確認した。
子供の方は細かい擦り傷や切り傷、おまけに火傷による怪我まで負っていた。酷い怪我ではあるが、急いで治療をすれば助かるかもしれない。
母親と思われる女性の方は、瓦礫の破片でも突き刺さったのか腹から大量に血を流していて、顔はすでに青ざめている。一目で見ても助かりそうになかった。
「ご婦人、しっかりするんだ!」
女性は閉じていた瞳を開くと、虚ろな視線を宙に向け、乾いた声で尋ねた。
「誰か……そこにいるのですか……?」
「ああ」と騎士は答えた。
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