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女性はほっとしたような息をもらし、そばに倒れている少女の手を握りしめると、騎士に差し出すように持ち上げた。
「どうか……この子を……お助け下さいませ」
騎士は膝をつき、横向きに倒れた少女を背中から掬うようにして抱えた。
思ったよりも軽く、やせ細っている。先程の光景が見間違いでなければ、どこにあのような力があったのだろうか。
「私はもう……長くありません……どうか、その子を……お願いします」
騎士は口をかたく結び、困惑したた表情を宿した。
か弱き命は助けるべきだ。しかし、その後のことはというと、約束するには難しいことだ。
騎士は少女を傍らの冷たい土の上にゆっくりと寝かせると、胸に拳を当て、頭を垂れた。
「ご婦人。私はアルドレア国の騎士、サイラス・ウッドエンドと申します」
彼は、こんな時でさえ礼節に則り、きちんと名乗ることを忘れなかった。
「その子を私に預けるということがどういうことか、貴女にはお分かりなのですか?」
母親は微笑み、かろうじて頷いた。
「……子供に……罪はございません」
彼女は絞り出すような、しかし、力強い声ではっきりと告げた。
「例え、敵国に魂を売ることに……なろうとも……、その子はきっと、正しい道を選択してくれると……信じております……」
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