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震える手がそっと差し出される。騎士は両手で包み込むようにして、その手を握った。堅くて荒れている。紛れもなく母親の手だ、と騎士は思った。寒さに耐え抜き、子を育ててきた証がそこにある。
「お優しい騎士様」
母親の目には、既に光が失われていた。
「……最期に貴方にお会いできて……本当に良かった」
その瞳から涙があふれ、乾いた瓦礫の上に落ちた。
じゅっと音を立てて蒸発する涙に目を向け、騎士は下唇を強く噛んだ。
「ご息女は、私が必ず正しい道へ導きましょう。例え貴女の国とは敵同士であろうと、この子が自ら正しい道を切り拓けるよう、命を賭してお守りいたします。……ですから、どうか…………どうか、安らかにお眠りを」
母親は柔らかい微笑みを見せ、眠るようにまぶたを閉じて息を引き取った。その手から、すっと力が失われる。
騎士は手を組み、母親に祈りの言葉を捧げた。
「……どうしたものか」
騎士は改めて少女の方を振り向いた。
すっかり汚れ、乱れてしまったが、見事な金髪の少女だ。肌は白く、手も真っ白で柔らかい。それに、痩せた土地のとても貧しそうな村だというのに、着ている服はそれほど粗末でもないのが不思議だった。
(まるで、身分を隠しているようだな……)
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