2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「く・た・に・み・や・び、さんでよかったよね?」
北条華に尋ねられて、
「はい。」
と雅が応えると、華は手に持っていた部員名簿と茶道部の札が付いた部室の鍵を、雅の机の上にトンと置いた。
「じゃあ、後はよろしくね。」
「ちょっ、えっ!?よろしくって、どういうことですか?」
すでに立ち去ろうとしていた華が振り向く。
「あなたは、鈴音中等部唯一の茶道部員です。だから、今日から九谷さん、あなたが茶道部の部長になりました。私はちゃんと引き継ぎました。茶道部が潰れたら、それはあなたの責任です。いいですね?では。」
早口でまくしたてるように言い残して、また華が行こうとするので、
「先輩!北条先輩!なんで私が茶道部って・・。」
と、雅があわてて引き止める。
華がもう一度振り向いた時、華の目にはいっぱい涙が溜まっていた。
「私だってこんな風に引き継ぎたくなかった。私の代で茶道部を終わらせようかとも思ったのよ。」
華が続ける。
「でも。」
華は、気持ちを落ち着かせるように、ひとつ深く息をする。
「でも、ずっと続いてきた名門茶道部の最後の部長なんて、やっぱり嫌。先輩たちに私が茶道部を潰したなんて、ずっと言われ続けたくないの。」
泣きながら華が訴える。
「だからって、なんで私なんですか?」
雅が聞くと、呆れた顔で華は雅を見つめる。
「九谷さん、本当に覚えてないの?」
「はいっ?」
「あなた、入学した時に、茶道部の入部届けを書いたのを忘れたの?」
「私が、ですか?」
キョトンとする雅。
「そう、書いたの。私が書かせたの。入学者名簿の名前を見て、あなたは茶道部に入るべき名前だって、雅な九谷焼きさんだって。だから私が勧誘に行ったの。」
「あっ。」
華に言われて、雅はやっと思い出した。
「思い出した?だから、次の部長に引き継ぎに来ました。」
「でも、私、退部しました。だから、茶道部員じゃ・・」
「あなたのはっ!」
雅が言いかけるのを遮るように、華がたたみかける。
「あなたのは、辞めたとは言いません。ばっくれた、と言うんです。1日だけ部活に出て、足がしびれて、それが嫌で逃げたのよねえ?」
「ま、まあ。」
「だから、それから1度も部活に来てないだけで、退部届は提出されてません。あなたはまだ、茶道部員です。」
「は、はい。ごめんなさい。」
雅は、何も言えなくなる。
最初のコメントを投稿しよう!