第1章 北条先輩の卒業

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「く・た・に・み・や・び、さんでよかったよね?」 北条華に尋ねられて、 「はい。」 と雅が応えると、華は手に持っていた部員名簿と茶道部の札が付いた部室の鍵を、雅の机の上にトンと置いた。 「じゃあ、後はよろしくね。」 「ちょっ、えっ!?よろしくって、どういうことですか?」 すでに立ち去ろうとしていた華が振り向く。 「あなたは、鈴音中等部唯一の茶道部員です。だから、今日から九谷さん、あなたが茶道部の部長になりました。私はちゃんと引き継ぎました。茶道部が潰れたら、それはあなたの責任です。いいですね?では。」 早口でまくしたてるように言い残して、また華が行こうとするので、 「先輩!北条先輩!なんで私が茶道部って・・。」 と、雅があわてて引き止める。 華がもう一度振り向いた時、華の目にはいっぱい涙が溜まっていた。 「私だってこんな風に引き継ぎたくなかった。私の代で茶道部を終わらせようかとも思ったのよ。」 華が続ける。 「でも。」 華は、気持ちを落ち着かせるように、ひとつ深く息をする。 「でも、ずっと続いてきた名門茶道部の最後の部長なんて、やっぱり嫌。先輩たちに私が茶道部を潰したなんて、ずっと言われ続けたくないの。」 泣きながら華が訴える。 「だからって、なんで私なんですか?」 雅が聞くと、呆れた顔で華は雅を見つめる。 「九谷さん、本当に覚えてないの?」 「はいっ?」 「あなた、入学した時に、茶道部の入部届けを書いたのを忘れたの?」 「私が、ですか?」 キョトンとする雅。 「そう、書いたの。私が書かせたの。入学者名簿の名前を見て、あなたは茶道部に入るべき名前だって、雅な九谷焼きさんだって。だから私が勧誘に行ったの。」 「あっ。」 華に言われて、雅はやっと思い出した。 「思い出した?だから、次の部長に引き継ぎに来ました。」 「でも、私、退部しました。だから、茶道部員じゃ・・」 「あなたのはっ!」 雅が言いかけるのを遮るように、華がたたみかける。 「あなたのは、辞めたとは言いません。ばっくれた、と言うんです。1日だけ部活に出て、足がしびれて、それが嫌で逃げたのよねえ?」 「ま、まあ。」 「だから、それから1度も部活に来てないだけで、退部届は提出されてません。あなたはまだ、茶道部員です。」 「は、はい。ごめんなさい。」 雅は、何も言えなくなる。
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