エントロピーの神様

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エントロピーの神様

「エントロピー増大の法則って知ってる?」 アイスコーヒーにすればよかった。カフェの店内は寒いぐらいの冷房で、うっかりホットコーヒーをテイクアウトしてしまった。ぎらぎらと照り付ける日差しに目を細め、初夏にしては暑すぎる気温にくらりと眩暈をおぼえる。ついに幻聴が聴こえだすとは。 「失礼だな。幻聴ではないよ」 妙になれなれしい口調が聴こえるが、前にも後ろにも人影はない。影は自分のものと電柱だけが伸びていて、猫一匹いない。やっぱり冷たい飲み物にすればよかった。 「キミのスマホから喋ってるんだ」 スマホが手から滑り落ちたところをギリギリで受け止める。最近画面の修理をしたばかりなのに、また壊すところだった。 素早く左右を見渡し人影がないのを確認し画面をのぞき込む。まさか。 「やっとこっちを見た。いつもは無駄に見てるくせにね。」 見覚えのないアイコンが画面を占領していた。丸い輪郭のなかに吊り上がった目がバランス良く配置されている。口は小さく、頬には3本ヒゲが描いてある。顔の左右には長すぎるが耳のようなものがある。猫のようなアイコンがこちらを見ている。まさかウイルスに感染したのだろうか。それにしても、だんだん横柄な口調になってきていやしないか、こいつ。
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