エントロピーの神様

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一度目を閉じて、深呼吸してから口を開く。 悪いが、断らせてもらう。 「どうして?説明がわかりにくかったかな。人格をコピーするといってもキミの身体に影響が出ないようにできるし、対価としてキミに最高の治療を斡旋するよ。難しい病気だけど、苦痛を最大限減らした延命治療でも、最新の遺伝子治療でも可能だ。キミはただ頷いてくれれば今の状況よりはよくなるよ。」 コピーした人格は一体どうなるんだ? 「ワタシの有する人格の一つになる。混ざり合ってキミの人格が失われることはない。直接ワタシと接続するけど、あくまで別人格ではある。いきなり混ぜるなんてリスクは取れないからね。つまりいま『生きている』キミの双子ができる、と言ってもいいね。こちらは肉体を持たない人格になるけど。」 やっぱり断るよ。せっかくの申し出だけど、自分は一人で十分だから。 「身体を持たない、病気も老いもない『神様』になる気はないの?」 それがつまんないから、話しかけてきたんじゃないのか? 感情を持たない不死の神様は、有限で不自由な人間が羨ましかったんだろう?
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