7話 フランダースの犬

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7話 フランダースの犬

僕は小学6年生の頃、フランダースの犬を読んで号泣した ( 漫画ではあるが )。ある日の学校からの帰り道、空き地に仔犬が捨てられていた。 震えて「くぅーん」と泣いていた。 僕は母親に何度もお願いして、やっと飼う事ができた。勿論、名前はパトラッシュと名付けた。 パトラッシュは、本当に可愛かった。 毎日散歩に連れて行き、餌も僕が必ず、犬小屋まで持って行った。 公園でボールを投げると、いつもくわえて戻ってきた。ただし、靴やゴミばかりで、1度もボールはくわえて来ない。 それに、誰にでも吠えるパトラッシュが、家に泥棒が入った時は1度も吠えなかった。 僕が高校生の時、池で溺れている子供を助けようと、パトラッシュが池に飛び込んだ事がある。一緒に溺れて、近所のおじさんに助けられていた。 幸い2人とも無事だった。 馬鹿なのか?よく分からなかったが、僕はパトラッシュが大好きだった。 僕が30歳の時、結婚前提で付き合っていた彼女がいた。でもパトラッシュは、彼女を見ると吠えまくり、彼女もパトラッシュを嫌悪した。 彼女と一緒になるには、病気がちな母とパトラッシュを置いて、出て行かねばならない。 勿論、そんな事は出来なかった。 彼女と別れたその年のクリスマスは、大雪だった。 でもそれは、母と最後のクリスマスでもあった。 急に倒れた母に驚いて、慌てて救急車を呼んだ。 しかし、大雪で救急車は中々来なかった。 パトラッシュは玄関に出て、救急車が来るまで吠え続けていた。 そして母は、僕の手の中で、息を引き取った。 あれから何年経った事だろう。僕は60歳にして、体を壊し寝たきりだ。パトラッシュも年のせいだろう。ほとんど吠えなくなっていた。毛も所々抜け落ちて、痩せ細っていた。 「僕たち、そう長くないかもな」パトラッシュにぼそっと呟く。パトラッシュは、僕の側で目を閉じて静かにしていた。 「そう言えば、今日はクリスマスだな」あの日のような大雪だ。 ふと、フランダースの犬の最終話を思い出した。 2人、大聖堂の中で死んで行くのだ。 「お前と一緒なら、それもいいかもな」 そう言いながら、僕はパトラッシュの頭を撫でた。
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