3話 お父さんと一緒に

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3話 お父さんと一緒に

僕は、お父さんとお母さんを見つめていた。 2人とも泣いている。僕の写真を抱いていた。 それから、ご飯の時も静かだった。 最近は、僕の好きな海老フライが出てこなくなった。美味しいのになあ。 夏になると、毎年のように、海に連れて行ってくれた。でも今年はお預けだ。 冬は大好き!クリスマスプレゼントがあるもん! 今年も僕のベッドに、プレゼントを置いてくれた。 それから5年が過ぎた頃、もうプレゼントを置かなくなった。お母さんが出て行ったんだ。 お母さんは泣きながら、僕の名前を呼んでいるように見えた。 それからまた5年が過ぎた頃、お父さんは酒浸りになっていた。よく昔の事を愚痴っているようだ。 そんな所で寝ると、風邪を引くよ。 また5年も過ぎると、お父さんは寝たきりになっていた。たまに近所のお医者さんが診に来てくれる。 あんなに若々しかったお父さん、今は白髪混じりで手も足もガリガリだ。 ある日、お医者さんが慌てて、様子を見に来てくれた。何かお父さんの耳元で、ぼそぼそ言っている。 お父さんは、首を横に振るばかりだった。 そしてしばらくすると、お父さんは動かなくなった。 「タカシ」突然、後ろから声がした。 振り向くと、お父さんだった。 「タカシ、お前ずっと見てたのかい?」お父さんは静かに聞いてきた。 「うん、見ていたよ。声は聞こえて来ないんだけど、ずっとね」僕はそう応えた。 「もう20年になるのか?タカシごめんよ。お父さんのせいで、お前を死なせてしまった。あの時、目を離さなければ…本当にごめんよ」お父さんは泣いていた。 僕は首を振った。「違うよ!僕が悪かったんだよ。赤信号を飛び出したんだもん」僕はずっとお父さんに言いたかった。「だから自分を責めないで」 お父さんは頷いてばかりだった。 「お母さんは?」僕が聞くと「お母さんはね、他の人と幸せに暮らしているよ。医者は呼ぼうとしたが、今更死ぬ姿を見せたくなかった。悲しむだけだろう?」そしてお父さんは、僕の手を握った。 「さあ行こうか。長い間、待たせたな」お父さんは優しく笑った。 僕も笑い返した。 そしてお父さんと一緒に、この家を出て行った。 終わり
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