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5話 ピザの宅配便
店長が電話を切った。
「おい、コウタ。あいつから注文だ」そう言って、嫌な顔をした。
「またあいつですか?」コウタは溜息をついた。
「そうだ、またあいつだよ」と店長は、注文伝票を厨房へ回した。
コウタは、このピザ屋でバイトを始めて半年になる。でも、こんな客は初めてだ。
あいつの名前は中井と言う。
中井は、あの手この手で時間延長を誘い、もう3回もタダにしている。
そして、今日で4回目の注文だ。
最初は、中井の住むマンションのエレベーターが、各階に止まって行った。まずいなと思ったが、案の定遅れた。
次は、マンションのロビーのエレベーターが、点検中のため使えなかった。「嘘だろ?」階段で登るしか仕方ない。
念の為に言っておくが、ここは高層マンションで、中井は20階に住んでいる。
足が棒になったうえに、勿論、間に合わなかった。
当然、下りも階段だ。ヘトヘトになりながら帰り際、管理人に文句を言ってやった。
「おかしいな?点検は夜中にやるし、今日は何も聞いてないですよ」と言っていた。ふざけるな!
そして3回目。
マンション前で、女性と軽くぶつかった。彼女が持っていたジュースが、スカートを少し濡らした。
「きゃっ!」「あっ、すみません」
謝ってマンションに入ろうとすると「ちょっと!すみませんで済ませる気?」と散々嫌味を言われたので、クリーニング代を渡し、そして遅れた。
シミが分からないほどの、派手なスカートなのに。
帰り際、コウタがバイクにまたがった時、先程の様子を見ていたおばさんが「ちょっとあんた、災難だったね。あの娘、愛想が悪いので有名なんだよ。確か20階に住んでる中井さんだっけ」と聞いた名前を口にした。「妹も妹なら、兄も兄だよ。嫌味ったらしくて挨拶もなしさ」
何だって?じゃあ、僕は兄妹にはめられたのか?
そして今、コウタはマンションの前に立っていた。
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