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「そうなのかな?僕にはよく分からないよ。宿題なんて出された日にやってしまう方が効率的でしょ?」
きっとこれは会話では無い。
言葉のキャッチボールでは無く、互いに壁に向かってボールを投げて、跳ね返って来た球を交互に拾っているだけの壁当て。きっとそれが一番近い。
僕らは独り言を言う一人ぼっち同士なんだ。
「ふふ。君は相変わらず真面目だね。昔見た映画のアンドロイドみたいだ」
その時彼女は微笑んだのだろう。かすかに漏れた笑い声が耳をくすぐったんだから。
今この時も、海を見るその人の背中を見てる僕には、感情を測る手段が無いままだが、その笑い声だけが、少しだけど彼女の欠片に触れた気がして、身体の芯に一度だけ鼓動が振動した。
熱が溢れるのは、夏の暑さのせいだろう。
「意外だね。SF映画なんて見るんだ」
少しだけ静寂が訪れると、途端に蝉の声がうるさく感じた。
長い間、ドラマの続きを待つかのような躍動に唾をのみ。壁当ての相手がいなくなってしまったのかと思い視線を一度あげる。
確かにそこに彼女はまだいて、海と日差しだけが僕らの言葉の方向を示している。
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