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1章・上
高校生活最後の夏休みの始めの朝。
父が死んだ。
新聞配達の音がかすかに街に響く白い時間帯に、姉の使っていたお気に入りのカップが、割れる、無機質な音が家の中を走り抜ける。
眼前には泣き崩れる母と、状況を理解できないといった様子の青ざめた姉がいて、視線をあげれば、マヌケな寝癖をつけた人形のような顔をした男が鏡に映る。
その男は、冷静に状況を見据えて、小さく咳払いをした後、自分のカップにコーヒーを注いでいる。
その男は、誰も手をつけてない朝食のトーストをかじっている。
その男は、付けっ放しになったテレビから淡々と流れる天気予報を見ている。
その男は、どうやら僕らしい。
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