1章・上

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病院からの電話によれば、父は通勤中にいきなり胸を押さえて倒れこみ、そのまま緊急搬送された病院で息を引き取ったそうだ。 なにやら難しい病名を聞かされた気がするが、一言一句覚えれなかった。 大急ぎで支度をして病院に向かうと、薄暗く薬品臭い受付に、作りこんだかのような厳しい顔をした医者が頭を下げて来た。 どうも病院という場所は、常に胸が重たくなるようで好きになれない。 誰もが、影の色を濃くして、どこか、遠くの何かを見るように、自分の名を呼ばれるその瞬間を待っていて、幾度となく繰り返したであろう診察を仕事として淡々と行う医者がいて、今も誰かの呼吸が止まっていて、今も誰かの腫瘍が取り除かれてる。 そんな無秩序で無機質な空気が渦巻いているこの空間は、誰かの体内にいるようで、息が詰まってくる。
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