「涙」 アイドルファン残酷物語

2/7
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
キモオタデブ。 それがご主人様に付けられた綽名だったそうです。 ちょっと太っている、ハンサムではない、不器用、頭の回転が鈍い……たったそれだけの理由で、学校では格好のイジメ役にさせられていたのだそうです。 毎日、日課のように殴られ、蹴られ、水を掛けられ、本やノートを破られ、お金を取られていたのだそうです。 誰からも蔑んだ眼で見られ、笑われ、後ろ指を指されていたそうです。蔑みの目や嘲笑から逃げ回るご主人様を助けてくれる人はいませんでした。 自分の部屋に引きこもるようになって、こんな子産むんじゃなかった…と親にも見捨てられてしまったのだそうです。 だから、寂しくて、悲しくて、涙を流すときも、いつも一人だったのだそうです。 私のご主人様は、誰も愛することが出来ず、誰からも愛されることのなかった、悲しい人でした。 だけど人間は一人では生きてゆくことが出来ないから……だから私をここに呼んだのだと、ご主人様は私を買った日に教えてくれました。 友達もおらず、恋人もいないご主人様がいつも見ていたアニメのヒロイン。 それが「本当の私」でした。 ブラウン管の向こうでいつも主人公の男の子に泣いたり笑ったり怒ったり拗ねたり、大忙しの女の子。その女の子の等身大の人形である私を買うために、ご主人様は持っていたお小遣いと貯金を全てはたいたのだそうです。 ご主人様は、毎日私に辛かったこと、楽しかったことを話してくれました。いろんなことを教えてくれました。そして、最後にはいつもやさしく抱きしめてくれました。 私、嬉しかった。 だけど私は、「本当の私」アニメの中の私と同じことは何ひとつ、出来ませんでした。 ご主人様が辛いとき背中をドンと叩いて豪快に笑って励ますことも、ご主人様が寂しくて下を向いている時にそっと抱きしめて慰めてあげることも…… 話すこともも出来ませんでした。 微笑むことすら出来ませんでした。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!