「涙」 アイドルファン残酷物語

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ご主人様は、学校を退学してからほとんど部屋の中に引きこもっていました。 だけど、彼女を応援するのだと決意してからは自分から家の外に出て、働き始めました。まるで生まれ変わったように。 何故なら「アイドル」というブラウン管の向こうの彼女がステージの上で歌い続けるためには、たくさんのCDを買って投票しなければならなかったからです。 コンサートで歌を聴くのにもお金がいりました。 握手会というイベントで会ってほんの少し言葉を交わすだけでもお金がいりました。 それも、たくさんのお金がいりました。 たくさんのお金を稼ぐ為の仕事は、きっと辛くてたいへんだったはずです。 ご主人様は、部屋の外の世界に自ら出て、自分をさんざんいじめてきた人や社会と再び関わって……そしてどんな目に遭いながら働いたのでしょう。 私にはとても想像出来ませんでした。 ご主人様は疲れきって……いいえ、それでもご主人様は一生懸命でした。 仕事に疲れきった顔で、それでも大好きな彼女の為に部屋が埋まりそうなほどのCDを買って積み上げ、1枚1枚開封しては、その中に入っている人気投票のハガキに自分の気持ちを込めた言葉を丁寧に書き連ねていました。 どのハガキにもまるで宝石のような言葉が散りばめられていました。 そして、ご主人様は部屋の壁に貼った彼女のポスターを見上げ、幸せそうな笑みを浮かべていました…
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