恋と模型と妖怪少女

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「遅いなぁ」 生ぬるい風がちょっと心地悪い梅雨間近の夕暮れ。 街路樹の並んだ街通りからちょっとはずれた薄暗い路地裏に、いかにも怪しげな人影がひとつ佇んでいる。 怪しい人影、といっても緑ヶ丘高校のブレザーを着た女子高生である。 しかし、顔にはホッケーマスク、手にはたくさんの釘を打ち込んだ木製バット、という物騒な出で立ちをしていた。 街灯がひとつきりの路地裏に通りかかる人はほとんどない。だが、たまに帰宅中のサラリーマンや買い物帰りの主婦が来ると、そのたびに慌ててマスクを外し、バットを後ろ手に隠して素知らぬ顔でやり過ごす。 そうしながら彼女は通りの向こう側を懸命に見張っていた。 彼女……内村千秋は、まもなくこの路地裏を通りかかる同じ緑ヶ丘高校の同級生カップルを闇討ちしなくてはいけないのだ。 彼女は、手にした釘バットを見て思わずため息をついた。 「それにしても何でこんなことになっちゃったんだろ」
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