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ところが翌日。
失恋した幼馴染を心配して彼の教室にやってきた千秋は、郷次が教室に持ち込んだものを見て思わず息を呑んだ。
「何よ、それ……」
それは軍艦の模型だった。
今までも造形作家志望の彼が作った作品を何度か見せてもらったことはあったが、彼女はこれほど手の込んだものを見たのは初めてで驚いた。
前後を睥睨する巨大な主砲、城の天守閣のように聳え立つ艦橋、細部まで実に精巧に作ってある。艦尾には日本の海の鎮めを示す旭日旗が翻っていた。
「凄い……これ、本当に郷次が作ったの?」
昨日の失恋でさんざん苦悶したらしい郷次は憔悴しきった声で「ああ」と、答えた。
「桐川さんの下の名前と同じ戦艦榛名だよ。誕生日にプレゼントするつもりだった」
その言葉はまるで錐のように千秋の胸にぐさりと突き刺さった。
「は、榛名さんにあげるつもりだった模型をどうして持って来たの?」
「明日流す」
恋の灯籠流しだ、と力なく笑う郷次を見ているうちに、千秋はこれほど情熱を傾けて模型を作ったのに報われない彼も、そんなことも知らずにいる彼の想い人も次第に憎らしく思えてきた。
「ねえ、それで諦めがつくの?」
「つかないだろうなぁ。でも仕方ないさ。もう終わったんだ」
「なんで諦めるのよ」
「何だよ、諦めろって昨日言ってたのは千秋だろ?」
そっけなく言い返され、千秋は思わずカッとなった。
「昨日は……あ、あんたが朝から女々しく泣いてたから諦めろって言ったのよ!」
「なんだと?」
「あんたがまだ諦めないって言うなら私があんな顔だけのバカップルなんかぶっ壊してチャンスぐらい作ってあげるわよ!」
「えっ? おい、何言ってるんだよ」
驚いて顔を上げた郷次は「それはいくらなんでも……」と狼狽したが、千秋はもう止まらなかった。
「本当よ! 私はね、好きな娘に勘違いした模型なんか作ってメソメソ泣いてるアンタとは違うのよ! ふん、闇討ちでもしたらビビッて逃げる園部君に桐川さんだって愛想尽かすでしょうよ。見てらっしゃい!」
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