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勢いとは恐ろしいもので、千秋はあっけにとられている郷次を尻目に教室を飛び出すと、その足で体育倉庫から木製バットとホッケーマスクをかっぱらってきた。
更に昼休みを利用して工作実習室にバットを持ち込むと、慣れぬ手つきで木製バットに釘を1本1本打ち込んで殺人用釘バットを完成させてしまったのだった。
そして放課後、彼女はこの路地裏に潜んで学校帰りの二人を襲うべく、待ち伏せていたのである。
しかし、なかなか来ない二人を待っているうちに、逆上せていた千秋の頭も次第に醒めて来た。
そもそも千秋にとって別に恨みなどない二人を何故、釘バットで闇討ちなんかしなくてはいけないのだろうか。
千秋は俯くとため息をついた。
「園部君も榛名さんも遅いなあ。あ、付き合い始めたばかりだからどこかでイチャイチャしながら寄り道なんかしているのかもなぁ」
闇討ちしようとこうやって薄暗い路地裏でコソコソしている自分のことなど知らぬ気に、喫茶店かどこかでお茶を飲みながら楽しそうに笑いあっているのかも知れない。
そう考えると、さっき萎んだはずの怒りが再びメラメラと燃え上がってきた。
「ぐぬぬ、やっぱり許せないわ。きっと“榛名ちゃん、君は戦艦榛名のように凛として美しいよ”“ああ、そんなことを言われたらあなたの砲弾に貫かれても後悔なんかしないわ”なーんて……」
「そんなバカ丸出しのエロい会話なんかしていません」
怒りに任せて口にした千秋の独り言に、冷ややかな言葉が返ってきた。
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