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初めはパチパチという小さな破裂音をさせながら燻っていた小さな炎が、今となっては轟々と激しい音へと変わり…あの人との思い出の場所を焼き尽くそうとしていた。
あの人と並んで幾度も歩いた石畳の道には、炎が勢いを増す度に、1人…また1人と野次馬が増え続け、彼方此方で飛び交っている噂話が飛び飛びで耳に入る。
その周りを覆い隠すように繁っている、鬱蒼という言葉が似合う木々達は、炎から己の身を守るかの様にそれぞれの葉を揺らし、漆黒の空に不気味な音を響かせている。
まるでそこだけが昼間の様に明るいのだ。
真夏の炎天下の様に肌がじりじりと火照り始めた頃…私はどうにも居たたまれなくなって強く拳を握りしめた。
誰か…早く…火を消して。
何もかもが無くなってしまう…。
あの人との約束も…。
あの人との思い出の場所も…。
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